Sparrow!!--#3:Dive(03)

「彼女? えっ、まじ? いつできたんだよ」
「ちっ、違う。そういうのじゃない。クラスメイトだよ」
「へぇぇ? ふぅん? 彼女じゃないクラスメイトと手繋いだりすんの? そんな顔して結構タラシだねぇ、翔」
「……!」
 絶句する翔をよそに、颯介は再びこちらに向き直った。綺麗な顔が、とびっきり爽やかな笑みを作っている。
「それにしても可愛いね。俺、久世(くぜ)颯介。そっちは?」
「ええと、宝生雛、です」
「はは、名前も可愛い。雛ちゃん、FM見に来たの? ここは初めてみたいだね」
「は、はい。天馬マリンドームでは、見たことあるんですけど」
「なるほどねぇ」
 頷きながら、颯介はちらりと翔を一瞥した。翔はというと、居心地悪そうに彼から視線を外している。
「じゃあ、折角だから一緒に見よう。準戦のことだったら、翔よりも俺の方が詳しいし。良いよね、翔?」
「……別に、良いけど」
「よしよし。ではお兄さんに任せなさい!」
 調子良く颯介は先頭立ってロビーの奥へと歩き出した。そんな彼の後ろに付きながら、翔は項垂れて雛に呟く。
「時間、合わないように来たつもりだったのに」
「どういう関係なの?」
「近所に住んでるってだけ」
「幼馴染なのね」
 雛にとっては羨ましい響きだった。昔から習い事ばかりしていたせいで、小さい頃から親しい友人など殆どいないのである。
「そうなるのかな。昔から、三人でよく遊んでたから」
「三人?」
「さ、ここから客席に行けるよ」
 颯介にそう案内されるがままに通路の門を抜けると、一瞬にして視界に空色が広がった。
「わぁ……!」
 天馬マリンドームほどの規模ではないが、身を見張るほどの広さはあった。外から見た時と高さの印象が違って見えるのは、グラウンド部分が地面を掘って低く作られているからだろう。屋根は正面の一部分しかなく、擦り鉢状に広がる客席には、一番上のギリギリの高さまでシートが設置されていだ。観客は客席の六割ほどしか埋まっていなかったが、その上空では、二機のFMが絡まるように熾烈な試合を繰り広げている。
『――機、後部にヒット。4点追加』
 場内に事務的なアナウンスが流れ、客席上に掲げられたディスプレイに数字が灯った。これだけで、アナウンサーが声高に実況していた本戦とかなりな雰囲気の差がある。ごぉっと風圧をまき散らして互いに距離を置いた二機は、蛇が絡み合うような軌道を描いて接近を始める。
「翔、雛ちゃん。こっちこっち」
 久しぶりに見る生のFMマッチに感嘆している間に、颯介は観戦する人々の間を縫うようにずんずん進んでいき、こちらに向かって手招きする。慌てて追いつくと、一列空いた客席の真ん中に座る一人の少年の後ろ頭が見えた。今まで雛の周りには一切いなかったような、派手な金と黒の混ざった髪色をしている。
「黎二(れいじ)、はいこれ。待った?」
「――決まってんだろ。おっせぇよ!」
 颯介が抱えていたスポーツドリンクを差し出すと、彼は乱暴にそれをぶんどった。その荒っぽい口調にぎょっとして、雛は思わず翔の後ろに隠れる。
「ははは。ごめんごめん、ロビーで翔に出会ってさぁ」
「翔?」
 彼が肩越しにこちら――もとい翔を振り返って、ぎろりと一瞥した。造りこそ整ってはいるが、口調から漂うイメージとあまりにもぴったりな、猛禽類のような鋭い目つきをしている。座っているのでわからないが、体格的にも颯介より更に一段階大きそうな雰囲気である。ただ雛の目を一番引いたのは、彼が着ている服装だった。
 深い赤地に所々黄色の差し色が入っているそれは、どこからどう見ても操縦士用のライダースーツだ。皮に近い質感のその素材は、吸い付くように五体をぴったりと覆いながらも絶妙なたるみを残し、独特な伸縮性をアピールしている。デザインは無駄が無いのにも関わらずスタイリッシュで、関節部に付いたサポーターさえもすっきりとしたディティールにまとまっていた。
「てめぇ、来るならもっと早く来いよ。俺らの試合終わっちまったぞ」
「そうみたいだね。勝ったの?」
 背後に隠れた雛を気にしつつ、翔は至って普通に彼に応じた。
「当たり前だ。つーか、十分も掛かんなかった」
「またフォールさせたのか」
「パワー無ぇくせに接戦に持ち込む方が悪い」
「けど――」
「まぁ、反則ってわけじゃないしね。接触しちゃったら、軽い方が落ちるってのは仕方ないことでしょ。ほら二人とも、こっち側に来て座んなよ。立ってたら他の人の迷惑だよ」
 納得いかない顔の翔を、颯介が飄々と遮った。言われたとおりに席を回って彼らの横に着くと、先に座っていた少年が、やっと雛の存在に気付いたという風に顔をしかめる。
「……誰だ、そいつ」
「聞いてびっくり! 翔の彼女だよ」
「はぁ?」
「違う!」
 自分のことのように得意げに胸を張った颯介に、少年と翔が同時に声を上げる。
「翔、お前免許取ったからって調子乗ってんじゃねぇの」
「だから違うって。そんなんじゃない。クラスメイトの宝生」
「初めまして……」
 挨拶をしたものの、怯みすぎて蚊の鳴くような声になってしまった。少年はちらりとこちらを見はしたが、は、と鼻で笑って再び空中へと視線を戻しただけだった。慌てて颯介が取り持つ。