Sparrow!!--#1:Sprout(05)

「……高校生でも、なれるんだね」
「受かればな。年齢制限は一応無いけど、十代は受ける人自体少ないみたいだ。去年、二つ上の知り合いが受かった時も最年少だって話が出てたし――」
「――雛!」
 その時、聞きなれた声が翔を遮った。振り向くと、少しだけ息を弾ませた駿が立っている。年甲斐も無く不安そうな表情は、迷子になった幼児のようだ。
「お兄ちゃん」
「ごめん。あれから人ごみに流されちゃって、かなり移動してたんだ。試合中も身動き取れなくて」
 正直、試合のインパクトに飲まれたまますっかり忘れ去っていた。
「いいよ。私もここに来るの遅くなったから……あ、こっちはクラスメイトの橘川。さっき会って、FMのこと色々聞いてたの」
「へぇ……こんにちは、雛の兄です。妹がお世話になりました」
 気弱な性格をしているくせに、人見知りを殆どしないのが兄の美徳だ。満面の笑みで握手を求めた彼に対し、一方の翔は、少し戸惑ったように視線を泳がせている。
「いや、世話ってほどじゃないです。話してただけで」
「嘘。さっきだって、私が具合悪くなったの助けてくれたでしょ」
 茶化すようにそう付け加えてやると、迷っていた彼の手を、すかさず駿が物凄い勢いで掴む。
「ほんとに? 凄い、ありがとう!」
「はぁ……」
 先ほどの表情とは一変し、兄の様子に気圧されている翔が可笑しくて、雛は思わず吹き出した。彼はそんな雛を一瞥し、整った顔をわずかに赤くする。駿の手が離れると、落ち着かなそうに辺りを見回した。周りのざわめきはすでに凪いでおり、次なる興奮に向けて神妙に待機する観客が多く見える。
「もう次の試合始まるし、俺も身内と来てるから、そっちに行く」
「えっ、そうなんだ」
「まだまだ試合残ってるから、さっきみたいにはしゃぎすぎるなよ。またバテるぞ」
「わ、わかってるよ」
 当然のように最後まで一緒に見る気でいた事に気づき、今度は雛が赤面した。翔は駿にも会釈して足早にスタンドを後にしかけ、
「あっ、ちょっと待って、橘川」
 言葉すら考える間もなく呼び止めていた。振り向いた彼は、またあの凛とした目をしている。更に顔が赤くなっていくのがわかり、胸が苦しくてそれが直視できない。
「……が……頑張ってね、試験」
 やっとのことで続けると、翔はふっと表情を緩ませて、笑った。
「ああ。じゃあ、また新学期にな」
 そう言い残して去っていく彼の背中を見送りながら、雛は込み上げてくる熱いものを必死で抑えた。隣で興味津々に二人のやり取りを眺めていた駿が呟く。
「――結構仲良いんだね、橘川君と」
「そうかな、今日で初めて喋ったんだけど」
「ええっ?」
『――さて、第二試合への準備が整いました! 次なる戦いに挑むのは……――』
 兄の素っ頓狂なリアクションに、アナウンスが高らかに被さった。観客はざわめきを取り戻し、太陽は最初に見上げた時よりもはるか高くにある。目を凝らして見ると、一羽の鳥がすっと飛翔していた。雛はそれに、先ほど見たFMの姿を重ねる。
 私にも、見れるのかな? あそこからの景色が。
 無数の歓声の海に再度包まれながら、雛は視界の奥まで広がる完璧な青を想像し続けていた。


(#1:Sprout--FIN.)