異端の森

ここから先に足を踏み入れれば
二度と生きては帰って来れない。
その老齢の門番はそう言いながら
厳かにその巨大な門を開けた。

高く突き立てられた十字架の上
そこに掛かるは醜く劣化した頭蓋骨。
その上に留まった大きな鴉が
神なぞいないとこちらを見下ろしている。

闇の塊のようなこの森はとても広く
この世の終わりまで続いているかのよう。
幾百の昔から生命を飲み込んできたこの森は
今こちらに向かい静かに手招きをしている。

半身を覆う火傷が激しく痛んだ。
これは六日前に街人達につけられたものである。
火傷は膿んだ後、呪いのように黒く変色し
自分が今こうして生きていることを責め立てる。

どんな生まれの者にも
その者の負うべき誇りと使命がある。
ぶよぶよと腐食した森の土を踏みしめながら
母がよくそう言っていたことを思い出す。
彼女はとても強く、灰になる瞬間まで
その瞳は真っ直ぐに空を睨んでいた。

異端は異端として異端らしくしか
この世には生きる術も場所も存在しないのだろう。
ならば自分も自分として自分らしく
最期の最期まで黒として生き、黒として死のう。

東の空には星は無い。
否、この森が喰ってしまったのかもしれぬ。
自分にはもう帰る場所など無い。
あとはそう、ただただ飲み込まれていくだけ。


後に東の大魔女として語り継がれていく少女の
最後で最初の物語。



(異端の森--FIN.)